第137章 お母さんと呼ばせてください

西川安菜は目尻の涙をぬぐいながら言った。

「私、大学入学共通テストをちゃんと受けられただけで、もう十分満足してます。ここでのことは……なかったことにします。きっと、あの子も一時の衝動だったんだと思うんです」

言葉は尻すぼみになっていった。大人な言い方だ。けれど、その奥に押し殺した悔しさが滲んでいる。

女の子がこんな目に遭って、それでも傷つけた相手を追い詰めることすらできないなんて――聞いているだけで胸が痛い。

有岡幸人と有岡洋子は唇を結び、互いに視線を交わした。

どんな角度から見ても、この件は揉み消したい。こんな不祥事が表に出れば、有岡家の名に傷がつくだけじゃない。会社にも響く。

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